X'mas LIVE4




抱き寄せて、腕の中に閉じ込めるようにして、奏司は静の唇に自分の唇を重ねる。
何度も甘いお菓子を小さく摘むようにキスを繰り返す。
唇をほんの少し離すと「約束が……違う……」と静が云う。
「何? 約束?」
小さな声。弱々しいながらの拒否が、奏司の頭に血を上らせた。
右腕を静の背に回して彼女の肩を掴む。
ジャケットの中のブラウスのボタンを外して、キャミとブラのレースが外気に曝される。
その柔らかな盛りあがった左手で掴んで揉みしだく。
「奏司……ダメ……」
「なんで? ダメ?」
もう1度キスを繰り返す。
このままシートを引き倒そうと、レバーを捜す。
「お願い、やだ。車の中ではしないって……云った……」
「運転していない、エンジン切るよ」
「ダメ……あっ………」
ブラウスのボタンを途中まで外していたけれど、めんどくさくなって、中のキャミソールごと上にたくし上げていく。
ブラのレース部分を指で下げて、柔らかく膨らみのある肌が露出され、色づいている先端を口に含む。
「あっ……」
感じやすく敏感なその部分を歯で甘噛みしてから、舌で丹念に舐める。
「やだ……奏司……やめて……ダメ」
静は彼に与えられるその快楽に、身を委ねそうになる。
「オレが嫌いになったの?」
「違う、ダメなの」
奏司に施される行為のせいで、静は下腹部にキュウッと熱と痛みを感じた。
「何がっ!?」
「ん……」
静の唇を強引に塞いで、口内に舌を侵入させた。
彼女の歯も舌も、なぞるよう、力強さは失わないキスをする。
キスをしながら、手は静の柔らかい胸を揉み続ける・
キスから解放された彼女の表情は、少し涙目だ。
「静……」

「ダメなの、今日は、その―――――そういう日なの」

ピタっと奏司の手の動きが止まる。
静は赤面した両手で覆い隠す。
「……だから……ダメ……」
「ほんと?」
静は小さな子供みたいに何度も小刻みに頷く。
奏司は別に気にしないし、続行しても全然構わないけれど、静はだめなんだろうなと思う。
普通に今までだって4ヶ月もなかったし。
奏司は腕を放して、大人しく助手席に座る。
静は乱れた衣服を整えたあと、深い溜息をつく。
「ごめん」
奏司が云うと、静は奏司の頭を軽くポンと叩く。
「ちょっと、不安でヤキモチ」
「?」
「昔の男、大人じゃん……」
奏司がそう呟く。
彼がそんなに悩むことはないのにと――――静は思う。
「そうかもね」
奏司がさっきしでかしたことを、酷く怒るふうでもなく、一瞬、柔らかく笑って、ハンドルを握り、サイドブレーキを外す。
その表情を見て、奏司は少し安心する。
強引な行為を怒ってはいない許されたんだという安堵。
でも、不安は拭えない。
彼女を呼びとめたあの男は、あの元彼は―――――大人だった。
彼女を守る為に必要なものは持っているだろうと想像できる。
我が身を振りかえると、仕事上とはいえ、彼女に守られている部分が大きくて、歯痒い。
しかも未成年だ。
それに、それに―――――……。

――――――ヤツは絶対、静のこと興味持ったぞ。

静も恋愛してきたんだろうということはわかる。
でも、この仕事上、プライベートの時間が持てなくて終った恋愛が多い。
相手は別に静を嫌いで別れを切り出したわけじゃない。(静の仕事は嫌いでも)
機会があれば絶対、またヨリを戻したいとは思ってるはずだ。
まして、こうして再開したら、チャンスは絶対逃さない。自分だったら、絶対に押す。
車は街へと走り出していく。
助手席に座る奏司が何も歌わずに、黙ったまま、窓の外を見ている。
その様子を見て、静は機嫌を損ねたのかなと思うけれど、このあともどうにか仕事をしてもらわなくては、どうすればいいのかと考えめぐらす。
珍しく、笑い声も歌声もカーラジオすら流れない沈黙の車内だった。



「問題無いね」
8曲目までのリハーサルを終えると、石渡由樹はOKを出す。
「随分スムーズ、調子良すぎ。てか、機械的だな」
敏腕プロデューサー兼バックキーボード担当の由樹は8曲目までのリハを撮っていたビデオを観てそう感想を洩らした。
「問題ないって云ったじゃないっすか、そこでダメ出し?」
奏司がムっとして由樹に食って掛かると由樹はまあまあと宥める。
「らしくなーいってことでさ」
「……」
「なんかあった?」
「別にナンにもないっすよ」
「ふうん」
由樹は奏司を見てから、マネージャーの静の姿を捜すが、静はスタッフと打ち合わせをしている。
いまここで静を呼び出すと、奏司が動揺するかなと思う。
あとライブまでもう少し。
「ま、いいか。当日頑張ったら、御褒美をあげよう、奏司、何がいい?」
由樹は奏司を気に入ってるのだ。
男性ボーカリストにはこれまで目を向けなかった由樹だが、神野奏司だけは特別らしい。
結構甘やかしているなと、由樹自身も思わないでもない。
こんなことを云っても、奏司が由樹に何かをリクエストなんかすることはほとんど皆無で、。今時の子にしては物欲の薄い子だなと由樹は思っていたのだが、今回は違うみたいだ。
両腕を組んで、真剣に考え巡らせている。
「御褒美の前借りってアリっすか?」
奏司の意外な一言。
「いいよ。いってごらん」
「あー、今、ここじゃちょっと」
奏司はキョトキョトと周囲を見渡す。そんな仕草が以外にも幼く見えた。
「いいよ。メールでもして。明日からもリハよろしくね」
由樹は何を言われるのかワクワクした表情で答えて、リハの終了をスタッフに言い渡した。