リトルリーグ・リトルガール 白球少年 9
GWあけて、葉桜の緑がまぶしい。
教室に入ってヒデに声をかける。
「おはよーヒデ」
そしたらヒデのヤツどうしたと思う? ぷいって、そっぽ向いたのよ。
朝晴が機嫌悪くするとやるみたいに、ぷいって!
コノヤロウ。どういうことよ。何よその態度! あたしがナニをしたっつーの?
今日は5/6日。CWもあけて、学校は通常通り。
昨日は小柴さんと一緒にスポーツ店巡りして、ヒデの誕生日プレゼント買ったってゆーのにっ!!
あーもー腹が立つ、何その態度、もういい、お前とは口きかないよ。
あたしは無視をされた腹立ちをどーにか表面に出さず、授業を受け入れて、昼休みになるとヒデを無視して、音楽室に弁当持って立ち去った。
「男らしくないっつーの」
音楽室には宮城野先輩と、美香とあと、数人の後輩がいて、そこでお弁当を広げていた。
先輩は呆れ気味に云う。
「犬も食わないやつか」
「付き合ってもないし、彼氏じゃありませんから! 美香どうよ、あの態度、あんた、付き合ったら苦労するんじゃない!?」
美香は宮城野先輩とあたしを交互に見る。
「透子……」
「ナニよ」
「あの……」
なによ、云いたいことあんなら、ハッキリ云え! と怒鳴りそうになるのを堪える。
美香にあたっちゃいかん。
「あのね、透子……彼氏……いるの?」
美香の発言に先輩はあたしを見る。
「……いるの?」
「いないわよ!」
ドンと机を叩くと美香はほんとかなあとつぶやく。
まあ……美香にしてみれば、あたしに彼氏の一人でもいたほうが、ヒデとあたしがくっちゃべっても気を揉む必要もなくなって、いいかもしれないけどさ。
もし、そうなら、あたしがOKだしそうな男の1人や2人、紹介しろってゆーのよ。
「紹介してくれるの!?」
美香ににじり寄ると、美香は身体を離す。
「この際、野球部でもいいわよ、ヒデ除外なら」
「せんぱい……」
宮城野先輩の背後に美香は隠れる。
先輩は美香を脅すなとあたしの右手をぴしりと叩いた。
「じゃあ、あの、昨日、スポーツ店……行かなかった?」
「行ったけど、それが何か?」
「一緒にいた人、だあれ?」
美香の言葉にあたしは数秒動きが止まった。
「あの人……彼氏……?」
なんで、なんであんたがそれを知ってる……てか見てたの? どこまで? 会話も丸聞こえ!?
あたしが黙ると、宮城野先輩はあたしのから揚げをヒョイと摘み上げて口の中に放り込む。
「あっ!」
なんてことを!! お楽しみは最後にとっておくあたしの性格を知っててやったわね、先輩! あたしのから揚げ!
「透子、GW中に、デートしてた」
デート……デートって……いやデートといえば……それはデートの部類に入るから……デートとは云えばいえないこともないけれど……。
誰が、どこまで、ナニを見てたの?
いや、美香がスポーツ店であたしと小柴さんを見たっていうのは、もうわかるけれど……。
「荻島君……ビックリしてた……」
「……」
から揚げを租借して、飲み込んだ先輩は頬杖をつく。
「ふうん。GW最終日、藤吉が男とスポーツ店でショッピングをしていたと」
先輩の言葉に美香は頷く。
「しかもそれは美香も荻島少年も目撃したと」
「あとね、副キャプテンと野球部1年数名と女子マネも一緒だったの」
「合宿じゃなかったの……?」
あたしが云うと、美香は先輩の背中のかげからあたしの方に居場所を戻す。
「合宿は終ってー調整日だったの、それで、買い出しがあって、ちょっと久しぶりだから他のスポーツ店も見て、道具とか安く扱っていたら、検討してみようって、みんなでその地域の店舗を見てて……そこで、透子が、男の人と仲良さそうにしてて、荻島君はそれを見て」
―――――……あああ、なんてタイミング悪いんだ。
あたしは頭を抱える。
「機嫌、悪くなっちゃたの」
「そうですか……」
「彼氏なの?」
「はい?」
「だから、昨日の人は彼氏なの?」
ごめんね、期待に添える関係ではございませんよ。
……と云っとくと、美香はどう思うのかな。
残念がるかな。
やっぱ幼馴染だからって、ヒデと一緒にお弁当食べたりしてるのは気になるよね、美香も一緒に誘うんだけど、美香は照れちゃって、いつもこの音楽室で食べてる。
ヒデのこと好きなら、好きでもっとアピればいいのにさー。
「……いいの、それはおいておいて、美香、あんた、昨日がヒデの誕生日だって知ってた?」
「え?」
「知らないならいいの、あたし、プレゼント用意してるから、それ渡しなよ」
「え、なんで、透子が選んだんでしょ!?」
「あたしともう1人が選んだの、別にいいよ、あたし達よりも、美香から貰う方が、今のヒデには嬉しいもんだよ」
「えーじゃあ、ダメじゃん、透子はよくても、一緒に選んでくれた人に悪いよ!」
「いいのよ、ヒデのことを好きな子がいて、その子を応援したいから渡してもらったって云っておくから、だいたい抜けがけしてる女子マネだっているんじゃないの!?」
美香は俯く。
なんだとう!? あてずっぽうで言ってみただけなのに……いるのか? そーゆーの!
あんたそれでどーするのよ!?
「でも」
でもじゃない!!
「いいの、その人も―――――ヒデを知ってる人だから」
「透子……もしかして……スポーツ店にいたのはその為なの……?」
……どうしてそういうことを訊いてくるかなー。
もう云わない。ヒデも誤解してろ。
それでアンタ達がどうにかなるんだったら、あたしは多少ドロを被ってもいい。
「渡せないよ……それは……」
あーそうですか!
「美香! そんなんだから、1年の女子マネに舐められるのよ!」
あたしが叫ぶと音楽室にいる後輩がビクウ!と身体を竦ませる。
「藤吉、落ちつけ!」
「落ちつけないって! さっさとまとまっちまえ!」
「……」
「ナニよ」
「だって……荻島君は……好きな人がいるみたいなんだもん」
ドキリとする。
なに、それ。
ヒデに好きな人って……。
「あたしは、無理矢理、気持ちを押し付けられない」
「直で訊いたの!?」
「美香にそれができたら、今頃はあんたと美香は別の意味でトラぶってると思うよ」
先輩が口を挟む。
「そもそも、友情は成り立たない」
「わかってますよ、そんなことは。で、ヒデに好きな女がいるって!?」
「1年の女子マネが言ってた……告白したみたいだけど、断られたって。気になる人がいるって云われたんだって」
「……それは―――――」
別に女だとは限らない。
だってヒデは好きな人って言ってない「気になる人」なんでしょ?
―――――どんなに騒がれても、認めてもらいたい人に認めてもらってないしな。
―――――オレを認めて意識してくれてるでしょ、ライバルなら。だから、ライバルじゃないの。オレの一方通行なんだよ。
気になる人はいるんだって云ってたよ。確かに。
でも。
それは恋じゃなくて……ライバル……だと思ってたんだけど、そうじゃなかったの?
あたしは溜息をついて、宮城野先輩のサンドイッチを一切れ口の中に放り込んだ。