Delisiouc! 16
だいたい、セックス以前の問題じゃないか、オレの場合は。
告白したけど、次へのアプローチがしにくい。
告白を、あの場でするべきじゃなかったんだと、今現在は後悔している。
最初に自分の存在を知ってもらってから、コミュニケーションをとっていってお互いの距離感を存在を把握した上で、告白ってするもんだよな。
オレなんて、存在知ってもらうために告白したようなもんだろ。
しかもどさくさにまぎれて、相手の弱ってるところへ、ガンと押し込むような!
あーばかだ。
そんなヤツが課長を誘えないじゃん。
好きって告白したら、自分でひたすら想ってるだけになるだろ。
だって、実際アプローチしたらさ、どうなのよ。なんだかオレが一方的で課長が迷惑に感じるかもしれないじゃん。
「ねーねー、慎司、誠ちゃんまだ悩んでる」
「なんで悩むかな、頻繁にデートに誘えばいいだろ」
「断られたらどうすんだ!」
「別に、また誘う」
「はあ? 迷惑じゃないか!」
「迷惑だと本人がいうならやめればいい、そうでなければ、アプローチするべきだ」
「だって、だって、うざいとかキモイとか想われないかな?」
「誠ちゃん……、女が本気でウザイ男に対してとる態度って、どんなもんか知ってるの?」
「知ってる……と、想う」
見てはならないものを見てしまった。できるならこの視界に入れたくない。存在しない。そんな感じ。あれ……そうだよな、そうなんだよな普通。
でも課長はそんな素振りは……。
いやいや、でもほら、同じ職場の後輩だから、無視できなくて仕方ないとかさー。
課長自身もほら、弱いところをオレに見られて決まり悪くて仕方ないとかさー。
そういう可能性もあるかなって。
勘違いしちゃいけないよ、そんな妄想して現実知って、泣きを見るのは他の誰でもないこのオレだ。
「ほんとー?」
「……」
美緒子ちゃんは、携帯を片手にピコピコと指を走らせた。
「もしもしーカチョー? 美緒子でえす。そうそう。この間、写メありがとー。おいそーだったー。あ、今ねー慎司とー誠ちゃんとー、そうよ、降矢。うん。ごはん食べ終わったとこよ。でー中華パーティー今週末に決定したからー。んー絶対来てよー! 中華は人数いないとねー。用事あったら日にちまた変えるよ? え? 大丈夫? やったー楽しみにしてるねーじゃーねー」
ピっとそこで携帯を切る。
オレは唖然と美緒子ちゃんを見てた。
中華パーティーって、先日のあれ、マジでやるんだ?
で、それ今週末なんだ?
いつ決定した? たった今、美緒子ちゃんのの脳内で決定したのか?
「うだうだ、考えてるなら、おいしいご飯を作る方に考える力を向けてよー」
「美緒子が誘ったとして、もし、降矢をキモイと想ってるなら、今の電話で断ってるよな相手は」
倉橋の言葉に、美緒子ちゃんはうんうんと頷く。
「もちろん、恋愛感情で好きー、じゃないわよ?」
「わかってるよ」
「でも、嫌われていないしどっちかてゆーと好きな部類だから、これからじゃん」
「……」
「だーかーら、おいしいの作ってね」
満面の笑顔で小首をかしげる美緒子ちゃんは、やっぱりモデルさんだと改めて想うほど、綺麗で可愛いかった。
―――――週末。
作りました、腕によりをかけて、食材も市場で仕入れてきて、調味料とか以前仕事でお世話になったロンさんに頼んで分けてもらったり。
美緒子ちゃんは撮影で少し遅れるけれど、休みの倉橋を足代わりにして、市場やら、ロンさんのお店やら、車で回って。
「ああ、オレ免許取ろうかな」
「都心にいると、免許必要ないんだけどな、あると便利だ。デートに使えるしな」
「デートかよ。倉橋らしい発言だ」
「降矢は何に使うんだよ」
「仕事とか、帰省するときとか、一緒に載せてもらったじゃん」
「ああ」
そう、実家に帰省するとき、倉橋と一緒に帰省したことが、何回かある。
「なんだ。帰省するって、おじさんかおばさんの具合悪いとか?」
「うんにゃ、元気。だけど、すぐに帰省できるじゃん」
「まあ、お前と長年同居してなきゃ、オレはこの車もてなかったし。家賃折半で、いろいろと、節約にはなったよな」
「うん、そーだねー。車でさー。みんなでちょっと遠出してバーベキューとかすると、楽しそうだもん」
「やろうぜ、それ、いいじゃん。彼女も誘って」
「断られたらなー」
「一対一じゃねーんだから、大丈夫」
それはそれで不安なわけよ、運転手、イケメンだから。
家に戻ると、部屋も片付けとかテーブルセッティングは倉橋に任せて、俺はひたすらキッチンで食材と格闘した。
リクエストは。海鮮おこげと、エビチリ、小龍包、あとは、デザートに杏仁豆腐。
点数が少ないかなと思ったんで、小龍包は二種類。プレーンなヤツと海鮮おこげで使っている食材をそのまま流用しているシーフード系の味
エビチリは辛めに、でも、美緒子ちゃんや課長もいるし、女性にはもう少し、柔らかめに、マヨ和えのヤツを用意。
朝から市場に出てもらった倉橋にはお疲れ様の意味で老酒を用意。
女性には杏露酒を。
あ、お茶……ウーロン茶でいいかな。
課長はお酒、あんまり飲まなさそうだもんね。
コンロが三口あるとね、スピードが違う。
一人暮らしワンルームだったら、こんなに料理に集中できなかっただろう。
DINKS仕様とはいえ、ファミリータイプのキッチンに感謝だ。
えびの殻向きとか、念入りな下ごしらえ、この殻で出汁を取っておこう。
海鮮オコゲや、小龍包のスープにも使える。
もちろん前日から下ごしらえしたたのもあるけれど。
ドアチャイムが鳴って、倉橋が玄関に向かう。
あー緊張するー。
「たーだーいーまー」
……なんだ。美緒子ちゃんか……。
「お邪魔します」
いつもの美緒子ちゃんの声の次に聞こえてきたのは、課長の声だった。
「撮影終わったら電話して待ち合わせしてきたんだー。誠ちゃーん」
オレは声の方向へと振り返る。
「作った? たくさん作った? なんかおいしそうな匂いする」
「作りました。頑張りました、倉橋を足代わりにして、食材調達したとも」
「慎司なら、誠ちゃんのアッシーなんて喜んでやるっしょ?」
廊下を抜けて、美緒子ちゃんと課長が、リビングダイニングに現れた。
「いらっしゃい、課長。座ってください」
「あの、コレよかったら使って」
課長が差し出してくれた紙袋を見る。
「あ、中国茶だ。すみません、お気遣いいただいて」
「硬い!」
美緒子ちゃんがペシとオレの頭を軽くはたく。
「ありがとうございますー。ウーロン茶しか用意してなかったんですよ。あ、ジャスミン茶のほかにもある!東方明珠!」
「なに? ドンファ……?」
ドンファンミンズウ。工芸茶。お湯を注ぐと、お花が茶器の中に広がる中国茶。
女の子が好きそうな……。てか美緒子ちゃんは喜ぶだろう。
ガラスの口の広いタンブラーでいいよな、これ。
味もそうだけど見た目を楽しむものだし。
さすが課長おしゃれな選択。
「どうするーコレ、最初に飲む?」
「ジャスミン茶は戴こうよ、で、そのお花のお茶は最後がいい!」
美緒子ちゃんはね、こういう時すっごく助かる。「えーあたしー、なんでもいー」ってタイプじゃないから。
自己主張がはっきりしてるからなー、優柔不断なオレからしてみたら羨ましい。
「課長は?」
「うん、それでお願いします」
にっこりと笑顔で答えてくれる。
普段は硬い感じなのに、こうして私服の課長はなんだかとっても可愛い。
「美緒子ちゃんに、遠慮することなく、どんどんリクエストしてくださいね」
オレも腕の振るい甲斐があるんですから。