Delisiouc! 6




一緒に仕事したいさ、めっちゃしたいです。(いや、そこはそれ以外もだろうという、どこかの2人の声が聞こえてきそうだけれど、それはまず置いていおく)
それよりまずは、お見合いの件を尋ねたい! 仕事辞めないの? 
結婚しても仕事続けるってこと? こんなプライベートなことダイレクトに訊いたら、印象は悪くなるだろう、どういう風に云えばいいんだろう。
噂で聞いたんですけど、とか? 
ああ、いやいや、飲み会の喧騒があるとはいえ、課長がお見合いしたのは、知らない人もいるかもしれない。ココでバレて、会社に居辛くなるなって、退職とかはありえないだろうけれど、でも……そこは気を使うべきだろう! 何て云う? 何て云えば云い?
オレが1人でぐるぐるしてると、大垣主任が話しかけてくる。
「課長。降矢をこっちに回してくれてありがとうございます」
ビールを注ぎ足そうとしてるけれど、課長はそれを片手を広げて、軽く拒否をする。
「降矢君は、口下手だし、コンサルの方には向いてないのは、新入社員の研修時点でわかっていたのよ。でも、企画するモノはいいから……そっちに異動してから免許をとるのもありだとは思ったけど、本人が努力できそうだから、免許を取ってからの異動がいいかなって。コンサルでの仕事がだいたい把握してれば、そっちに移っても戸惑わないだろうし」
そこで、なんか云えばいいのに、云えない。
ほんとコミュニケーション能力低い。
「……オレ、ほんと、ダメだから」
「なんで? 降矢、ダメじゃないぞ、さっきも」
「オレ前の部署で、仕事をなんとかしたかったけど、やっぱり、話すの苦手で。課長には迷惑かけたかもしれません。こっちで、お手伝いできたらって、思います」
一緒に仕事できたらいいなあ。前は同じコンサルでも部署が別れていたし。
商品企画は各コンサル部と連絡を取り合って、一緒に仕事もするから、深澤課長と一緒に仕事できたらいいな。
好きな人と仕事を一緒にできるのって、すごくやる気がでる。
こっちに移ってきたばっかりで、いきなりそういうことにはならないだろうけれど。
そのぐらいは夢みてもいいよね。
「降矢がこっちきてから、俺は思っていたんだけど、降矢、お前、なんで自分がダメとか思うの?」
大垣主任が尋ねる。
そんな、なんでって云われても、全体的にこう、ダメ男でしょう。
「自信がないから、頼りなく見える」
深澤課長がそう云う。
確か昨日、折原さんにも云われた。

――――――自信がない。

「私も、降矢君ぐらいの頃はそうだった。自信がなくて」
そんなこと想像できない。自信無い深澤課長なんて。
「でも、自分に向いてるのはやっぱりこの仕事だってわかったから」
「あ、訊きましたよ、噂」
噂って?
「見合いしたんですって?」

キタ――――――!

大垣主任! 切り出すか!? いいのか? 訊いてもいいのか!?
「ああ、結構広まってるのね」
え、課長! そんなこと自覚してるんだ!?
「すごいっすよね、結婚しても自分のことは自分でしろ、仕事をやめろといったら、この話はないからそのつもりでって云ったんだって? しかも開口一番」
「うん、仲介人の紹介前に、ズバっとね」
げっ。今のその切り口上を想像した。
頭の中で深澤課長が、極妻の岩下志麻みたいになっている。
その声でその切り口上、独身男はびびるだろう。
「見合いしないと煩いからしたまでで、断るなとは訊いてない。まあこの年の女と見合い結婚しようと思う男は、家庭のことを女に任せたいのが大前提なんだから」
「えーやっぱ、それじゃあ、相手から連絡は?」
「あるわけないでしょ」
よかったあぁぁぁ。それじゃ、それじゃ、結婚しないんだよね、仕事できるんだ。一緒に。
ハタっと大垣主任の視線に気がつく。
え? 何その視線。あ。そういうニヤニヤっとした顔はどっかで見たことあるよ。
ウチの同居人とか。夕飯を食べに来る人とか。
「ほら。降矢、ビールおつぎして」
「あ、はい」
「いいの、ビール、あんまり好きじゃないから」
意外だ。
深澤課長はさっきと同じ仕草で断る。
「えーと、じゃ、別のもの、頼みましょう。どれがいいですか」
オレはメニューを渡す。
飲茶っぽいのを売りにしてるけれど、焼酎やカクテルは結構ある。
「キウイ・グレープフルーツサワーにしようかな」
「はい」
オレは店員を呼びとめる。
まだ大学生ですっって印象のヒョロっとした男性のホール係に、追加オーダーを頼む。
「あ、えと主任は?」
「老酒」
「それも追加で」
「はい」
ホール係が立ち去ると、主任は回りに聞こえないようにいう。
「降矢、お前、渋い趣味だな。てか趣味はむしろいい」
ギクリ。オレは動きが固まる。メニュー持ったまま。息も止まる。
「けど、悪くは無いが……」
オレはゆっくり主任を見る。
「また難しいのを」
「な、な、何が……すか……」
「いやいや、凄いチャレンジャーだとは思う、応援するぞ、俺は」
バレタ!? いや、コレはバレタだろ。
「……だ、誰にも、い、云わな……」
「わかった、わかった」
そう云ってると、オレの向い側に座ってる小野さんと尾崎さんが、声をあげる。
「あー大垣主任と降矢さん。ナイショ話」
「あーやーしー」
ちょっと待てえ! キミ等もその目で見るか!?
どうなの? そう思われるってことは、オレの顔はそういう顔に見える?
「どうした。降矢」
「最近、同じような感じで、からかわれて、オレ……そういうふうに……見えるでしょうか?」
深澤課長にも?
いやああああああ。勘弁してくれ。
オレが1人で、心の中で泣き叫んでいる間、深澤課長と大垣主任の追加オーダーがきた。
深澤主任が、生グレープフルーツを絞っていたんだけど、どうやら力が入らないらしい。
握力がないのか、ほんの少ししか絞れていない。
「あの、よければ」
オレがやりますからそれを貸して下さいと、目で訴えると、深澤主任は、グレープフルーツをオレに手渡した。
「お願いしていい?」
はい。よろこんで!!!
オレはギュっと2、3回、捻るように果汁を絞ってそれを深澤主任のジョッキに注ぐ。
ジョッキには焼酎の他にすでにミキサーにかけられているキウイフルーツが入ってる。
マドラーで良く混ぜて、主任に渡す。
「意外ね」
「?」
「力あるんだ」
ああああ、やっぱそう思われてる?
そりゃオレは細いっすよ、でも男ですから力あります。
もう、訊きたい問い質したい。オレはホモに見えるだろうか?(どっちかっていうと受けの方)でもそこで大きく頷かれてしまったら、立ち直れない。
「握力なくて、驚いたでしょ」
深澤課長が、困ったように呟いた。
ああ、よかった、話題はそこで。
そんなの女性なら当たり前ですよ。いや、握力ある人はオレよりもあるだろうけど。
「お疲れなんですよ、ビタミン取ってください」
アルコールだけど。ビタミンCも入ってる。
「ありがとう」
あ、今の顔、すごく好き。
ほんの少し、子供みたいな顔をして、笑うところが。5才年上の人なのに、幼く見えて、カワイイんだよ。そういう意外性って萌えだよ。

「降矢君は優しいから、彼女はきっと幸せね」

どこをどう見ておっしゃるのかっっ!!
この、オレに彼女がいるように見えるの!?

「そんな、いな、いないっす」
「あ、じゃ、これからなんだ」
「彼女なんて……ムリです」

ムリです。好きですなんて告白、相手に気持ち悪がられるのわかってて、迷惑だってわかっててそんなのできない。
課長。こういうのは優しいって云わない。
ただの弱虫です。