A miraculous day8




翌朝。
ニュースの芸能コーナーは、昨夜ライブで発言したことは、どの局でも、流れていた。

「お相手の女性はなんと8歳上で、元マネージャーだとか。最近までは「ぶるうべりー」のマネージャーをしていて、この結婚を機に退職していると」
自分の職歴を芸能ニュースの担当アナウンサーがしゃべるのを見て静はうんざりする。
「いやー驚きですよね、神野奏司の結婚してます発言」
「もっと驚きなのは、子供が同じ誕生日に産まれたってところですよねー」
「なかなかいそういうことはありませんしね」
「メリークリスマスですよね」
全体的には概ねおめでたいニュースのカテゴリーに入るので、コメントをするアナウンサー達も幾分好意的ではある。
事実を週刊誌あたりにすっぱ抜かれての、記者会見よりも奏司自身の発言に好感があったのは確かだ。
親と同じ誕生日に子供が産まれるなら、偶然にしてもすごい奇跡だし、おめでたさが倍増。
不景気な世情で華やかで明るいニュースには違いない……。
けど。

――――ネットはどうかな? 公式ブログに否定的な意見が書き込まれるなんてありだろう。

もちろん、パソコンは持ち込んできていない。
だからそれを確認することはできないのだが……。
「はい神野さん赤ちゃんきましたよー」
静はリモコンでTVを切ると、昨日産まれたわが子に歩みよる。
赤ちゃんは手足をばたつかせて、泣いていた。
「おしめかな?」
スタッフがおしめををとると、確かにそうだったようだ。
「色が黒いけど、これは滞便ですから、数日で落ち着きます。ミルクや母乳で色が変わったりしますから、おしめ替えの時は色をチェックしてくださいね」
そう云いながら手なれた様子で、おしめを替えてもらう、機嫌が良くなったらしくまたうとうとしてる。
子供を見て静は笑う。
しぐさの一つ一つが愛しくてたまらない。
時折、うっすらと。目をあける。
まだ見えるはずのない目。くりくりとした黒い瞳とブルーがかった濁りのない白目。
「おしめと同じぐらい、ミルクもこまめで少量ずつ、だんだんと増やしていきます」
赤ちゃんと同室になるので、スタッフからの説明と母乳を出すマッサージを受けていると、ドアノックのあとすぐに開く。
「静」
「……奏司」
時計を見ると少し早い。
スタッフも驚いてはいるが、もっと驚いたのは、カーテンを引いて顔をのぞかせたのが、今朝がたニュースで見た顔がそこにあったからだ。
「おはようございます」
奏司が愛想よくスタッフに声をかけると、若い彼女は驚いて頷く。
「あ、『おっぱいマッサージ?』やるやる、やらせて」
奏司が静に手を伸ばすと、静はビシっと奏司の手を指ではじく。
「痛い……静……せっかくマッサージ手伝ってあげようとしてるのに〜」
「その手つきがいやらしいからNG」
「ひど!」
そのやりとりにスタッフはクスクス笑う。
「じゃ、あと暫くしたらまた泣き出します。多分ミルクです。おしめも合わせて見てくださいね」
スタッフはそういって部屋を出ていく。
奏司は小さなベビーベッドに寝ている自分の子供を覗き込む。
「へへ、さとしー。おはよー」
「さとし?」
静が首をかしげる。
「そ、さとし『聖』って書いてさとし」
「……」
「だめ?」
「ううん。」
「でしょー、オレと静の名前を合わせてもよかったんだけど、でも呼び掛ける時は「せい」っていうから、ママとかぶるでしょ? で、静って一文字でかっこいいしーなら子供も一文字でって思って、『聖』」
「でもこれでもいいよね」
静は紙に書き出す。
『聖司』
やっぱり奏司の名前をちょっともらいたいな。と静が呟く。
奏司はそれを見て、ちょっと笑う。
「うちの奥さんはーもーなんでそういうこと云うかなー?」
「ダメ?」
「いいや、叔父さんも喜んじゃうねコレじゃ」
「……」
もちろん、静はそれも含めてこの文字を付け足したのだ。
「聖司……」
奏司が呟く。
「パパだよ、抱っこしていい?」
「首すわってないから、気をつけて」
「わかってる」
おそるおそるそっと抱きあげる。
小さな腕をびくんと突き出して、驚いた様子。でも泣きはしなかった。
「おお、泣かないのか、いい子だなー」
「……」
「何?」
「ううん。ほんとに、子供好きなんだなあと」
「聖司は特別だよー。お前が幼稚園入園したら、野球もサッカーも一緒にできるぞ運動会のリレーにだって参加しちゃうぞ」
奏司は近い未来の予定を腕の中の子供に語りかける。
「聖司が女の子だったらもっと可愛がりそうね」
「聖司に妹、作ってくれるの?」
安産だったけれど、そこそこは大変だったのに次の話を持ち出すんだ……。静は苦笑する。
でも目の前の彼の様子を見ていると……。
「通常、性交渉は産後一カ月後からよ」
その発言と共にカーテンを引いて現れたのは静の実母だった。
奏司はそのあからさまな発言を義母から云われてちょっと驚くが、でもそのビジネスライクな口調や雰囲気は、静に似ているなと思う。
「お義母さん。見て見て、可愛いーでしょ」
「……夜勤明け?」
静の言葉に彼女は頷く。
「……おばあちゃんだよー、聖司」
奏司が静の母親に聖司を抱かせようとするが、きちんと抱きとめるというか受け渡しや抱き方がやはり本職なのか上手い。
産まれたばかりの孫を見てその表情を綻ばせる。
「役所には14日以内に出生届けを出すのよ」
「そっか、じゃあ、オレ、週明けに行ってくるよ」
「たまには、この子を連れて遊びにいらっしゃい」
「……はい」
この聖司の存在が、少しは、ギクシャクとした静と母親の関係が修復するようなそんな印象を抱かずにはいられなかった。
 
退院後「ぶるうべりー」のメンバーや歌恋、石渡も、出産祝いにかけつけてくれた。
皆一様に、奏司に似てると声をそろえる。
「可愛いです〜」
「あんたも産めばあ?」
「歌恋さんと同じで相手がいないんで無理です〜」
「おい!」
みんなの声が聞こえているのか、ベビーベッドの中で聖司はひっきりなしに手足をバタバタさせている。
「産まれたての時と比べると、結構違うんだよねー」
奏司が云う。
「奏司は本当に子供に夢中だな」
石渡の言葉に奏司は頷く。
そうして云うのだ。
照れもなく。
いつものように。
 
「俺の誕生日に奇跡の贈り物をくれた、静が一番だけどね」
 
 
END