X'mas LIVE1




師走。
街はクリスマス一色。
電飾が煌いて、ツリーやリースがそこかしこに飾られていく。
TV曲で歌番組の収録を終えた神野奏司は、収録のカットの声がすると共に、セット脇に控えている自分のマネージャー、高遠静の傍にわき目も振らずに戻っていく。
年末年始向けの歌番組の収録がここにきて立て続けだ。
それに今月は12/24に初ライブが控えている。
大学の方もあるだろうに、奏司本人はこの忙しさに文句をいうことなく、スケジュールをこなしていく。
だから仕事の面では申し分ない。
の、だが……。

「キミは後ろ」

TV局の駐車場で、静は助手席のドアに手をかける奏司に云う。
TV局からの移動の車は、静が運転する。

「なんで!?」
「助手席は死亡率が高い」
「むかーし。死亡率の低い後部座席に座っていた女優さんが、事故で死んだよね」
「云うこときかないなら、マネ辞めるわよ」

奏司は舌打して、しぶしぶ車の後部座席に乗り込む。

「前は、助手席だったのに」

確かに、デビューしたての頃は、助手席に座らせていた。
自分が担当する、ボーカリストの人と為を探る為でもある。
だけど、デビューして3ヶ月後ぐらいに、まずいことになった。
彼に対して、仕事ととは別に興味があること、惹かれている事実。
そして彼自身が、静に対して、はっきりと恋愛感情を持っていると先に告げている。
仕事をする上で、それは非常にまずいと静は思った。
実際この仕事を辞めるかとまで考えた。
が、結局はこの仕事を続けている。


「最近オイタが過ぎるからよ」
「しーてーまーせーん」
「……」

静はイグニッションキーを回してエンジンを温める。

「好きな人が傍にいて、触りたいのはダメなわけ?」
「ビジネスとプライベートは別」
「最近ずっとビジネス!」
「……」

サイドブレーキを外して、ゆっくりとアクセルを踏み込む。

「歌が歌えて大満足じゃないの?」
「それ以外の仕事はっ!? それに見合う御褒美はっ!?」
「それ以外って?」
「とぼけないでよ! コレから予定の雑誌インタビューとかだよ! しかも! 音楽雑誌ならいいさ、我慢するさ! でも、なんで女性誌なわけよ?」
「今年の気になる若手アーティストだからだって」
「がああ」

奏司は頭を抱えて、後部座席につっぷす。

「インタビューいや?」
「イメージ作れって云われないのはいいけど、でも全部、最近静がカットさせてるじゃん」
「発言が好ましくないのだけでしょ。発言、自由にさせすぎだって、初回に上から文句轟々あったのよ。それに今日は対談。相手は若手俳優、五十嵐優。相手は君より3才年上、年齢も近い男同士で、楽しみでしょ?」
初回に上から文句があった一件とは、やはり女性雑誌のインタビューで、理想の女性のタイプは? との質問に、まんまマネージャーの静に該当する言葉を並べ立てた一件のことだ。
いくつかの雑誌はそれをまんま載せてくれたので、それを見た上司は静に嫌味を言ったのは、結構有名だ。
プロデューサーの石渡由樹は、マネージャーを気に入ってくれてよかった〜、なんて、恍けた発言を返してくれている。
神野奏司は、名実ともに日本のミュージックシーンのトップに位置するプロデューサー石渡由樹が、見初めた秘蔵っ子でデビューシングルはすでにミリオンを突破している。
年末の新人ディスク大賞にだってノミネートされているし、受賞はもう確実。
「野郎と話して何が楽しい」
「美人女優との対談の方が良ければ、次回交渉するわ」

―――――もし、そうなったとしても、この人はヤキモチなんて妬かないのかな。

7ヶ月前。
初めて彼女に出逢った時に。奏司は彼女に恋に落ちた。
第1印象で総てを決めるタイプでもないけれど、彼女は特別だった。
だからその彼女に気持ちが通じて、恋人のポジションまでこぎつけることができたのは、初対面から3ヶ月後。
だけど。
仕事上のパートナーなので、プライベートでの時間はとれない。
まだ、デートだってしていない。

「紅白、出たかった?」

静に云われて、奏司は首を傾げて、どっちでもいいといったものだ。
そこが大物。

「ライブがやれれば、それで幸せ」

静が奏司の前に担当したクルスマリアのボーカル歌恋も、そういうタイプだった。
この手のボーカリストでなければ、自分がマネージャーとしてやりがいを感じることはないのだろうと静は思う。

「24日。楽しみね」

初ライブだ。
クリスマスライブ2DAYS。
12月に入ったその日に新聞全面ぶち抜きで広告が貼られた。

24日―――――オレは二十歳になるのに、まだ子供扱いなのかな……。

バックミラーに移る、静の白い頬を軽く睨むけれど、彼女は気づいていないのか取材先へと車を運転させていた。