X'mas LIVE2




取材場所は都内ホテルのティーラウンジ。
そこでもクリスマス仕様のディスプレイが目に付く。
インタビュアーは若い女性ライターだ。編集者も女性。カメラマンは男。
インタビュアーの嬉々とした表情。編集者もそうだ。また、遠巻きに視線を送ってくる女性客もいる。
対談相手は、子役からキャリア10年。さすがに慣れているらしい。本音のところは表情に出さない。そこは俳優魂というべきか。
若いライターの方が緊張している。
奏司が指定されたポジションに座ると、対談相手はにこやかに笑う。
奏司も「始めましてよろしくお願いします」と云うと、相手も頭を下げる。
静はその様子を少し離れた場所で見ている。

「始めまして五十嵐です」
「神野です」
「ちょっと今回は嬉しいな、神野君と対談だから。CD全部持っているよ。あの曲好き。 『Step Skip Star』POPなカンジが好きだな」
五十嵐が挙げたその曲はプロデューサーの石渡由樹が、「一つ、王道のJ POP作ってみたよん」と御機嫌で奏司に曲のデモテープを渡した曲だった。
「ありがとうございます」
「liveでやったら、盛りあがりそう」
「やりますよ! X'mas live 12/24。ZIPP TOKYO で」
「それ! チケット取れなかったんだよね。もっと大きいところでやってくれたら、こっそり、見に行けたんだけど」
静は五十嵐優のマネージャーに、封筒を渡す。
五十嵐は今年デビューした神野との対談インタビューに大乗り気だという噂。
スタッフに頼んで2DAYS LIVEのチケットを2枚。静はキープしておいたようだ。
その旨をマネージャーから聞かされて、チケットを渡された五十嵐は、表情を綻ばせる。
カメラマンの手から連続シャッター音が流れた。
「もらっちゃった。うわ、すげえ嬉しい」
「2枚です」
「誰と行こう」
「彼女ときてくださーい」
奏司がおどけて云うと、五十嵐はいやな顔しないで、笑ったまま答える。
「野郎と行ったらダメ? 彼女いないから。あっ。神野君紹介して!」
「えっ! 紹介するの!?」
「仕事を一緒にする女優さんはいるけど、仕事終ったら連絡無しってのが大半」
「ホントに?」
「本当この仕事10年なんで、もう、学校の友達とかもあんまり親しくないってゆーか……神野君は学生なんだって?」
「はい」
「いいなあ。楽しそうで」
「オレはもっと仕事したい―――――歌いたいなって気持ちが強い。五十嵐さんは、役者として子役からずっとやってきてるじゃないですか、それなりに積み重ねてきた時間とかがしっかりあるの、オレは羨ましいかな」
「キャリアが欲しい時期?」
「積みかさねた時間は確かなモノで、周囲にはちゃんと認識される部分とかあるでしょう。それが欲しいかな」
「成る程ね」
そんな仕事に対して抱く思いを中心に会話が弾んでいく。

そんな対談をしながら、奏司は時々、静の存在を確認する。
五十嵐のマネージャーと何か話してないか気になって仕方が無い。
いつだてそうだ。
TV収録の時も、他のマネージャーとなんの話をしているか気になって仕方が無い時がある。
自分でも本当にどうかしてると奏司は思う。

初めて逢った時から惹かれていた。
ドアを開けて、入ってきた彼女は、硬質な美しさがあった。
そこに強烈な印象を受けた。
一目惚れは信じない、相手を見ていない気がするから、一目で恋に落ちるなんてないと思っていたし、過去の恋愛だって、そんなことはなかった。
だけど、彼女は特別だった。静と初めて逢って、恋に落ちてしまったのだ。
今までの恋愛でもそうだったように、なんとか自分を見て欲しいと願った。
大人の女性との恋愛は何度かしたけれど、相手は奏司のことを受け入れはするものの、すぐに関係の終りを告げてくる。
恋愛を何度もしてきた大人の女は、奏司をアクセサリー代わりにしてきたのだと、いくつかの恋愛を経験した後、その寂しい事実を奏司はずっと受け入れた。
でも、そういう大人の女性に惹かれてしまうのは性分なんだと自覚した頃に―――静に逢ったのだ。
ずっと、見つめて追いかけて、4ヶ月前に……恋人になったとき、夢をみているみたいだと思った。どうかこの恋が続くように祈ったのに――――……。
当の本人はツレナイ態度。
もちろん, 今までの彼女達と静は違うということはわかってる。彼女達は恋愛に対して、そこそこ情熱はあった。
が、静にはあまりないように感じる。静の年齢で、フリーだったのは、静のそういう部分に不満を持った相手が関係を切って来たのだろうと奏司は最近思う。
だけど静のそういう部分を知らない男からのアプローチは後を絶たない。

「神野君は、どうなの?」
「え?」
「聴いてなかった?」

インタビュアーの声を聴いて、静は振りかえる。
また何をぼうっとしてキチンとなさいと、目で怒ってる。
奏司は拗ねたような視線を静に返して、インタビュアーにもう1度質問を聴き返した。

「彼女からこうして欲しいといわれることある?」
「……そういうの、云ってくれないですよ。云って欲しいのにな」
「神野君。彼女いるのっ!?」
インタビュアーと五十嵐が異口同音、興味津々な眼差しで質問する。

―――――あ、やば。静が睨んでる?

静は何も云わずに、奏司を見ている。

「すっごく気になる人はいる―――――かな」
「おお!」
「でも、普通にいなですか? そういう人」
「気になる人ねえ……」
「五十嵐さんならいそうなんだけどな、いっぱい人と出会う機会が多そう」
「いるけど、それが恋になるかはわかんない」
「ですよねえ」

奏司も笑って相槌を打つと、静はまた背を向けて、コーヒーカップを口につける。
今すぐ席をたってすごく気になるのは静なんだと、誰に憚ることなく声に出せたらいいのにと、奏司はインタビュアーの質問を受けながら思った。