Delisiouc! 12




結構強引に食事に誘ったら、課長は了承してくれた。
テーブルに案内して、友人2名を紹介する。
「いいの? いきなり一緒で」
「全然、むしろ大歓迎、食事は大勢で食べるとおいしいですもん」
テーブル席につくと、美緒子ちゃんと倉橋に紹介する。
「初めまして、折原美緒子です。誠ちゃんがいつもお世話になってます」
「倉橋です」
倉橋は如才なく課長に名刺を渡す。
「広告代理店にお勤めなの」
「まだぺーぺーですけれどね」
課長はいつものビジネス用の顔になってるが、美緒子ちゃんを見て小首を傾げる。
「美緒子ちゃんはモデルさんです。最近たくさんTVとかに出てるんです」
「ああ、それで、どこかで見たかしらって、そう、降矢君には可愛い彼女がいるのね」
「ち、違います!」
オレが否定すると、2人はニヤニヤと笑う。
「誠ちゃん必死〜」
「一瞬、降矢君だとは思わなかったから、びっくりしたわ」
「あたしと慎司とで誠ちゃん改造計画してみました。可愛いでしょ?」
はいはーいと美緒子ちゃんは小さく手を上げて、はしゃぐ。
「弄りがいあるある」
「ねー?」
え? あれ? まって、オレのお祝いとかじゃなかった?
やっぱり遊ばれてただけですか? いいよ、もう。
「倉橋は学生時代からの同居人で、美緒子ちゃんは倉橋の幼馴染なんです」
「美緒子も半分同居人みたいなもんだけどな」
「ご飯の時にやってくるんです」
「そう」
「昨日は和食だったんで、今日はイタリアンで――――」
「深澤さんも、是非、夕食食べに来てくださいよ。作るのは降矢だから、味は保証しますよ」
「あたしも慎司も料理できない人だから」
「あらあら……でも、私もそうね、1人暮し長いし、自炊はなかなかしないわ」
美緒子ちゃんのミュールのつま先が、オレの足を軽く蹴る。
ああそう、そういうこと。
「じゃあ、是非、1度いらしてください。作りますよ」
オレがそういうと、倉橋と美緒子ちゃんはうんうんと頷いていた。
「オレなんか弁当まで作ってもらってる」
「いいなー慎司。あたしも弁当作って〜」
「渡す時間がないだろ」
「ロケ弁も悪くはないんだけど。誠ちゃんのお弁当おいしそう」
「どうだろ、倉橋はもー。何食わせても最近美味いしか云わないだろ」
「いや、美味いから、深澤さんもどうですか?」
「え?」
「降矢の手弁当」
倉橋、お前、なんてことを!
オレがビックリしていると、今度は倉橋がかるくオレの足を蹴る。
ああ、会話でつなげろと。もっていけと、だけどなー。
「課長がさえよければ、作りますよ? でもなービジネス的にNGだされる?」
「そんなことはないわよ」
「じゃ、よかったら、外回りじゃない時、明日とかは?」
「お昼? 社にいるけれど」
「作りましょう」
「え? いいわよ」
ほらなー。やっぱり断られるんだよ。
倉橋が美味いってうゆーから、オレもちょっと料理には自信ついてきたんだけどさ。
「だって、悪いわ、そんなの朝から」
遠慮ってヤツですか? そうなの? オレは倉橋の顔を見る。
この場合はどうなの? 押していいわけ? 
倉橋は「ぐずるな、畳みこむように、もう一押し」的視線を送る。
「二つ作るのも、三つ作るのも一緒です。迷惑ですか?」
「迷惑なのは、私の方でしょ?」
「全然、オレだって勉強になるし、ダメですか?」
「あーもー、シノゴノ云ってないで作ってもってけ、誠ちゃん、そいでもって、深澤さん美味しかったら、教えて〜メールして〜あ、メアド、交換してくださーい」
メアド!?
好きな人もメアドを訊くなんて、オレの人生の中でかつてあったか? いや、ない。
あ、別にオレが訊いてるわけじゃないけど、でも、そういうことをさりげなーくできる美緒子ちゃんとか、すごい。
……て、同性なんだから、それは自然とできるんだよね、いいなー。オンナノコ。
オレもオンナノコになりたい。この一瞬。ううう。
課長が戸惑っていると、美緒子ちゃんはかなりデコレーションされて、ストラップもキラキラな携帯を取り出した。
その携帯にちょっと驚いている課長。だけど、課長も義理堅いのか、携帯を取り出す。
なんの装飾もないストラップも付属のストラップみたいで飾り気がない。
対照的な携帯が並んで、アドレス交換される。
いいなー課長のメアド。オレも欲しい……。
「絶対。絶対約束ですよー、あ、食べる前に写メしてくださいね! あたし、それをオカズにロケ弁食べるんで!」
「どんな胃袋なんだよ、おめー」
倉橋が突っ込む。
まっとくもってそうだよ。その華奢な身体のどこに納まるのか、不思議でならない。
倉橋に突っ込まれても鼻歌歌って、テストメールを課長に流す。
「いいじゃん、あたし、美味しいもの大好きだもん。深澤さん、お仕事でたくさんお店知ってるんでしょ? 今度教えてくださいね。誠ちゃんは全然教えてくれないの! ご飯しか見てこないんですよ。作ってくれるからありがたいけどさー」
だってどーしたって、そっちの方が興味あるんだからしょうがないじゃん。
「でも、この間の中華の店は、結構気に入ってたみたいじゃない?」
「気に入ってというか、まあ、美緒子ちゃんは好きそうな内装だなーとは思いました。従業員の制服も可愛いかったし」
「チャイナドレス?」
「うん」
「いいねー。チャイナドレス。スリットが入ってるのがいいねー」
倉橋……そうか、問題はスリットか……いや、スリットは入ってたよ、うん、可愛かった。
でも、オレはやっぱり料理だなー。
「あの店、海鮮お焦げが美味かったと思いません?」
オレが深澤課長にそう尋ねると、彼女も頷く。
「ああ、あれ、美味しかったわ」
「えー! お焦げ!? 何それあれでしょ、お焦げに餡を乗せるやつでしょ? ジューって音立てて!!」
「そう」
「えーやー何それ! 何それ! ズルイ! 作って!! 誠ちゃん作って!!」
絶対云うと思った。
「はいはい」
オレは相槌を打つ。
「エビチリ! 俺は絶対エビチリね!」
「はいはい」
「深澤さんもここで何か一つリクエストを!」
倉橋が促すと、課長は笑顔になる。
「え? えー? じゃあ……そうね……杏仁豆腐がいいかな?」
デザートですか! その選択も可愛い。もー頑張って作りますよ!
「作りましょう! 杏仁豆腐」
「え? お菓子も作ってるの?」
まさか本当にそこで作ると云うとは思わなかったんだろうな。
ちょっと驚いた顔で俺を見る。
「果物酒だって作ってますよ、降矢は。オマケにそれでジャムも作る」
「すごいわね」
「1人暮しなら俺もここまで作らなかったかもしれないですね」
この2人がいるから、ある程度の量を作っても平らげてくれるし。
「あと何か作って欲しいものある?」
俺が尋ねると倉橋は云う。
「軽くつまめる点心がいい」
美緒子ちゃんが言う。
「シュウマイ! 小籠包!」
「いいねー小籠包」
「でしょ、でしょ? じゃー今度は、中華! 深澤さんもゼヒゼヒきてね!」
「おめーの家じゃねーだろ」
また倉橋が突っ込む。なんか夫婦漫才みたいな2人で、課長も笑顔になる。
「慎司のものはあたしのもの、あたしのものはあたしのもの」
ジャイアンですか、あんたは。
そんな2人はさておき。
「本当に、よかったら食べに来てください」
俺がそういうと、課長は笑顔で頷いてくれた。



その後、運ばれてくるイタリアンもおいしかったけれど、俺は明日の弁当のメニューを考え始めていた。
「降矢、どうだった?」
ドルチェが運ばれてきた時点で倉橋に尋ねられた。
「うん。メインの牛肉美味い。今夜牛肉だったから、明日鶏肉使うか」
「夕食?」
「弁当にね」
オレがそういうと、倉橋はニヤニヤと笑う。
なんだよもー。
「そうか、じゃ、このあと帰りはきちんと彼女を送って行くように」
そう云われて、ドキンとした。
それは是非、前回のリベンジといきたいけれど、大丈夫か? オレ。