フェミニストの征服
ブラウン管にはもうタイトルロールが流れ終っていた。
「なんだかすごい映画だったよねえ。恋愛映画というよりは……」
ポルノっぽかった。
「官能映画」
彼女の言葉にオレは頷く。
そうそう、それそれ。
バスローブをまとって、イオン飲料のペットボトルを片手にベッドサイドに彼女は座る。
その角度からは、俺がさっきつけた痕が見えた……。
物欲しそうな視線を感じとったのか、彼女はペットボトルをオレに渡してくれた。
「シャワー、使えるけど?」
「怒ってないの?」
「何故?」
「いや、いきなりだったし……」
遊びにきてみたら、彼女はBSの映画を流しっぱなしで、PCに向っていた。
この部屋、TVが時計代りだから、いつものことなんだけどね。
結構集中して仕事しているみたいだったから―――――。
邪魔しちゃ悪いし、大人しく映画を観てようと思った。
でもさ……この映画がちょっと……なんていうか濡れ場がすごくて……。
途中から観たんでよくわからないけれど、2人の男女が無人島に漂着するんだ。
女のほうは上流階級の高飛車なマダムで、事故にあったのは男のせいだとかなじるわけ、でもさ、サバイバルするなら水夫の男の方が断然、生活力あるわけよ。
食料や水分の確保とかさ。
無人島で誰もいない。
お金やカード、地位や名誉も意味はなくて、女と男の立場は逆転するんだよね。
それでそれで、やっぱり男と女がすることは、決まってるじゃん?
何も無い場所での本能剥き出しのSEX。
その映像観て、オレもムラっとして、なし崩しにやっちゃったから、怒ってるかも……とか思ったんだけど……。
どうやらそうでもないみたい?
「まあ、時間のロスはあったけど……別に怒るほどじゃない」
PCの前で何やらチェックして、書類に目を通す。
「よかったし?」
「そーゆーことを云わない」
クールな口調で窘められる。
だけど、実はそれが照れ隠しなのも知っている。
だって、オレ優しくしたつもりだし、満足してくれてると思ったんだけどな。
だって映画の中の男はすごかったんだよ?
ちょっとひどいんじゃない? ってぐらいにさ。高飛車なマダムをいいように扱うわけだ。
基本的には、俺はオンナノコ大好きだし、そーゆーこともさ好きだよ?
でもさ、これはちょっとね……。
「意外ね。男の夢じゃないの? 手の届かない女を完全征服」
「やってみたいけどさあ、男の全部が全部そんなんじゃないよ」
「ほんとフェミニストね」
背後から彼女を抱きしめたオレを、フレームレスの眼鏡越しに見上げる。
柔らかな視線と大人びた笑顔。
やっぱり、この人は綺麗だなあ。
「だってひどいじゃん」
「……ラスト観てなかった?」
「う……うん」
だって映画じゃないコトにちょっと集中してたし。
「落としどころはあるのよ。結局2人は救助されて、マダムと男は別れるの」
「……そうなの?」
「やっぱり男にとって夢でしたってコト。永遠に続くSEXなんてないでしょ」
オレは彼女を抱きしめる腕に力をこめる。
「ひどい」
「映画が?」
「違う」
アナタが。
なんだか、オレとの関係も長く続かないと、云われてるみたい。
クールで大人なアナタが大好きだけど、基本的に男心を解ってないよ。
オレは映画の水夫のように、身体を征服したいわけじゃないってこと。
オレが征服したいのは――――……。
「解らないなら……いい」
いつかオレは――――……まだ手の届かないアナタの心を征服する。