X'mas LIVE6




奏司は予定通りのスケジュールをきちんと消化したかいあって、仕上りは上々でスタッフ達もこれなら明日は成功だとみんな口々に言う。
そんな中。肝心の主役は憮然とした表情で周囲のお疲れ様コールを聞いていた。

「じゃ、帰りましょうか? 神野君」

声をかけるのは別のマネージメント部の井原。
静の後輩だ。
静がいるのといないのとではこんなにも反応が違う。

―――――めちゃくちゃ懐かない猫をなんとかしようとしてる気分。

井原が内心で思う。
静はまだこない。もしかしたら休みになるかもしれないと、井原がやってきて云った。
静の携帯にかかってきたのは、元彼からの電話。
渋っていたけれど、結局は今日を休みにしたのだ。
このライブ前日の土壇場にきて、それはないだろうと奏司は思う。

―――――仕事の話も含めてってことだし、年明けに仕事になるかもでしょ?

春から1ヶ月は教育実習に入るから、できるだけ仕事になるようなら話を訊いておくと云うのだ。
静を引っ張り出すなら仕事の話が有効だって、元彼ならわかっているからこその口実なのに。
敢えてそれに乗るあたりが静の天然なところだ。静に限ってそんなことはないと思いたいが23日なんて祝日だし、クリスマスイブ前夜なんだから雰囲気は盛りあがるだろう。

「奏司ちょいおいで」

由樹が奏司を手招きする。

「例の話、用意しておいたよ、場所はメールする」
「ありがとうございます」
「静ちゃん、知ってんの?」
「知らない」
キッパリ云うと由樹は首を傾げる。
「……明日。静ちゃんこないの?」
「オレにはナンにも連絡ないんで、知らないっすよ」
「え〜僕、もしかして静ちゃんに怒られる? 勝手なことしてって」
「大丈夫、オレが誕生日プレゼントに貰ったことにしておくんで」
「あーそうか、明日、奏司の誕生日なんだ」
「そう」
「静ちゃんが知らないはずはないもんね〜きっと大目に見てくれるか」
「……」
「何だその顔は。元気出してよ、明日のライブ、そんな顔で出たらキャンセルしちゃうよ」
奏司は右手で顔の半分を覆う。
由樹はクスクス笑う。
その時、バンと勢い良く扉を開ける音ともに、彼女が現れる。


「終っちゃった?」

ドアを開けて入ってきたのは、奏司が待ち望んだマネージャーだった。

「終った。静ちゃんどうしたの?」
「由樹さん、仕事のオファーが、高原さんもちょっと」
由樹と由樹のマネージャーの高原を呼んで、封筒を由樹に渡しながら、話し込んでいく。
「検討シマショ。来年ね」
「はい」
「奏司は?」
「……相変わらず、奏司に冷たいねー、企んでるよー奏司」
由樹が云う。
「冷たい……」
「ほったらかしで、それじゃあ奏司は報われないなー」
「……失礼します」
静が慌てて奏司の姿を捜そうとする後ろ姿を見送る。
「奏司さあ、アレ結構考えてるよね?」
由樹はクスクスと高原に耳打ちする。
「まあ、そうやって人を惹きつけておく力がないと、ボーカリストなんてできませんけどね」
高原は受け取った資料を見ている。
「そうだよねー僕が目をつけたんだよー、偉くない? なんかココ10年ぐらいのラッキーをあいつ見つけることで使い果たした気分」
「ええ、あの時。オーナーと貴方が揃って間抜けヅラしてたのは、誰にも云いませんから安心してください」
由樹は静の持ってきた仕事の資料を高原から、受け取ってもう1度目を通し始めた。



明けて12/24、神野奏司初ライブ初日――――。
開演時間前からすでに会場周辺は、神野のFANが足を運び始めていた。
会場の様子を確認して、静は奏司を見上げる。
昨日から何も話しかけてこない奏司に、不安を感じることがないといえば嘘になる。

「静」

奏司がようやく口を開いた。

「お願い」
「何?」
「このライブのあと、スケジュール開けておいて」
「開いてるでしょ」
「オレのじゃなくて、静の」
静は奏司の横顔を見上げる。
表情に出そうとしていないけれど、でも、完璧じゃない。緊張しているのだ。
「キミがあいていいれば、私も開いているでしょ?」
「彼氏は?」
「元彼氏、ナンの連絡もないわよ」
「ほんと?」
「ええ。だから、ちゃんと観せてちょうだい。キミの初ライブ」

奏司本人には、なかなか本音は語れないけれど、静はこの瞬間のために今まで仕事をしてきたのだからと、内心呟いた。