rainy day




休日、彼女がレンタルしてきたDVDを観ることになった。
外は雨。
せっかくのデートが台無しだねと云ったら、彼女はこういう過ごし方もいいねと呟く。
確かにふたりで映画鑑賞も悪くはない。

画面の中にはブロンドの少年。
アクションもなく、CGの華やかさもない、内容はヒューマンストーリー。
アル中に悩む母親、心と体に傷を持つ社会科の教師。
彼が授業で出した課題が、この映画の軸。
「世界を変えるための方法を考えなさい」
主人公の少年はこの課題に取り組む。
いい事をされたら、それを相手に返すのではなく、他の誰かに渡す。
ねずみ算式で。
そしたら世界は変わる―――――……。
少年は自分のアイデアを実行していく。
でもラストは………。
憎まれっ子世に憚るというか、いい人ほど神様が傍に置きたがるというか……。

彼女の横顔を見たら、ポタポタ涙を流していた。
まるで外の雨のように。
僕はエンドロールが流れるのを確認すると、ソファから離れて、紅茶を煎れはじめた。
部屋の中に茶葉の香りが広がる。
「あ、ごめん」
彼女は気がついて、僕に声をかけるが、声も涙声だし。
「いいよ。座ってて」
彼女はDVDを取り出して、ケースにしまう。
紅茶を煎れて、テーブルに置く。
「ありがとう」
「どういたしまして」
「あたし、この子役の子好きよ」
確かに可愛い。
オスカーもとったことある子役だよね?
「うん。でも顔じゃなくて、雰囲気が好きなの」
「雰囲気?」
「そこはかとなく上品」
「…そこはかとなくね」
「そこがあたしの好きな人に似てるから」
それって僕?
彼女はまだ真っ赤になっている目を気にしている。
「さっきの役って、そんなに裕福な家庭の子じゃないし、言葉遣いもなんだか乱暴だったけど、でもこう、やっぱり上品なカンジがするの」
「……」
「王子様みたいじゃない?」
彼女は紅茶を一口飲む。
「美味しい……アールグレイ?」
「うん。好きでしょ?」
「うん」
「アイスで飲んでも美味しいよね」
「うん……」
彼女は隣に座った僕の肩に寄りかかる。
フローラル系のフレグランスが微かに香る。
雨の日の休日はすごく静かな時間。
悪くないよね、こういうのも。
それに、彼女に寄りかかられるのは、嬉しい。
滅多にこんな甘え方をしない人だから。
「今度はどうしようか?」
「?」
「もう泣いちゃう映画はやだな。すっごい面白い話し、なかったっけ?」
ふっと肩が軽くなって、暖かさがなくなった。
これだよ。
いつもそう、もっと傍にいたいのにね。
ほんと、キミはつれなすぎる。
猫のようにするりと腕から離れていく。
でも今日は雨。
いつものように腕からするりと逃げていく空間は限られている。
だから……。
僕はキミを抱き寄せて、腕の中に閉じこめた。
「あのね……」
「なあに?」
「これじゃ、映画が選べないんですけど?」
今、顔が赤いのは涙のせいだけじゃないよね?
「映画はもういいよ」
僕はキミの気持ちを映画から離すための方法を考えた。
そんな僕をキミはいつものようにへこませる。
だけどいつもと違っていたのは、彼女が予想外の行動に出たこと。
僕の唇に軽く彼女に唇が当たる。
キミは僕の気持ちを捉える方法を、ためらいなく実行する。
そんなキミを幸せな気持ちなさせるためには、一体どんな方法があるだろう?
とりあえず僕はずるいから、僕が幸せな気持ちになる方法を実行しよう。
抱きしめる腕の力を少し強めて、今度は僕からキスをした。