同窓会 −4− 




「数ヶ月前に切れたのよ」
 
真咲の言葉に、斉藤とガンと飯野が身を乗り出す。
 
「どんな男?」
「名前は?」
 
「株式会社トキタ、NKフーズに、シゲクラ・ファニチャー」
 
「は?」
「派遣してたんだけどー、更新ならずで切られたの、現在プ―太郎でございますよっ!」
一気にまくしたてて、目の前のビールグラスを一気にあおる。
身を乗り出して聞いていた飯野とガンちゃんは椅子の背もたれに背中を預けて、何だ恋バナじゃないのかと目で語る。
「この就職難に、取り立てて資格も技術も持ってない女はやっぱり職には振られるのね、てか美紀はすごいよね、派遣から社員にならないかって言われるんだから営業成績もいいんでしょ?」
いきなり話を振られ美紀はあわわと慌てる。
美紀も職種さえ違うものの、派遣としては変わらない。
その実情は身にしみている。目の前で更新ならずの同僚を横目で見て、半分同情、半分安心、綱渡り的な感覚はわかる。
「……真咲ちゃん……それで落ち込んでたんだ」
「男に振られて〜じゃないのか!?」
「男より職でしょっ!! 職場で通ってこそ、ときめく出逢いもあるんでしょ!? 違うの!?」
「んー……うちはだいたい職場も客も女ばっかりだから出逢いはないよ。客もだいたいが女連れ、でも職のゲットは運が良かったよ〜まあ狙ってたんだけどね、年配で品がよさげで、社交的な奥さま狙いで販売アピールした。そういうのは客連れてまたリピートしてくれるから。でもガツガツした印象は持たれないように、販売トークテクニックや雰囲気は磨いた。そこから誰か良い話しをもってきてくれないかって期待してんだけどね」
宝飾店、派遣販売員の美紀は言う。
「でも、友里のナースはありそうだよね、イケメンドクターとのラブロマンスは憧れる」
「ないない〜、みんな既婚者だしー患者でもお年寄り大半ですよー、斉藤さんは、ありそうだよね」
「あるわよ。当然でしょ。でも鎌田は自業自得」
真咲はピクリとグラスを持つ指を動かす。
 
「中学の時からそうなのよ、あんた、手を抜き過ぎなのよ」

「はい?」
「あたしからしてみれば、鎌田が一生懸命になったのって、あのお遊戯会の衣装作りの時だけしか印象にないわよ」
「えー?」
美紀と友里が顔を見合わせる。
「テストもスポーツもさお洒落もさ、何一つ熱意をもってやってないわけ、でも、そんな手を抜き過ぎ感があるにもかかわらず、絶対に底辺にいかない。中の下、もしくは中の中なわけ。下手にある程度できるからって、なんでも手抜きして、就職活動だってそうでしょ、んで、派遣になって首切られてさ」
「斉藤……」
「あたしは努力したわよーうちなんてよくいうビッグダディ系の大家族だから、高校なんて悠長に通ってる金も暇もないし、好きなことがあればそれで飯くってこうって思ったんだから」
「斉藤、苦労してんだな」
ガンちゃんの言葉に斉藤は鼻で笑う。
「好きなことを仕事にしてるから苦労はないしー、技術職だからくいっぱぐれはないしー、最近は後輩もついてきたしー現状大満足ですよ」
「……カッケー」
ガンちゃんの言葉に斉藤はありがとうと言う。
「前から思ってたんだよ、鎌田のその、へんに余裕的なところ? もうムッカツクってさー。それで痛い目みたんだから、マジで取り組みなさいよ、あんたプライドないの?」
顔を上げて斉藤の言葉を聞いていた真咲はまた頭を垂れる。
「まったくもって、おっしゃるとおりでございます……斉藤センセー」
「とにかく、履歴書の写真を取る前に、絶対ウチの店に来て、あたしを指名しろっ! いいわねっ!!」
ビシイっと完璧にネイルを施した人差指で真咲を指差す。
「うううっ」
「ほら、マジでセンセー来ましたよ」
斉藤が店のドアの方に視線を向けると、そこには、小柄で華奢な、でも中学よりも少し大人びた菊池愛衣が入ってきた。
 
「真咲ちゃん!!」
「愛衣ちゃんっ!!」
「会いたかったー! 真咲ちゃーんっ!! 久しぶりー!!」
愛衣は真咲の後ろから抱きついて喜ぶ。隣に座っていた美紀が愛衣に真咲の隣に座るよう席を開けた。
「愛衣ちゃん美人になったなー」
ガンの言葉に、真咲は答える。
「愛衣ちゃんは前から美人です―。あのね、愛衣ちゃんっ今ね、あたしね、斉藤に説教されてたの斉藤ってば、お母さんみたいー」
「説教したくもなるわっ! このあんぽんたん!!」
「ダメだよ、斉藤さん、真咲ちゃんは打たれ弱いんだよ」
愛衣が斉藤に言うと、斉藤は首を横に振る。
「菊池、あんた、甘すぎ」
「なんで?」
「現在プ―太郎だからって理由でこの同窓会ブッチしようとしたんだよ!」
「そうなのっ!? 真咲ちゃんNKフーズに派遣に入れて嬉しいって言ってたじゃない?」
「契約更新ならずで切られました」
「それで、いま無職なの?」
「……愛衣ちゃん、無職って響きはすごくクルんですけど」
「あっ……ごめん……」
「光一ー」
ガンちゃんが瀬田に声をかける。
「何?」
瀬田は別のメンバーとテーブルを囲んでおり、昔話に花を咲かせていたようだが、ガンに問い返す。
「ウチの袴田がいってた人事、まだ募集中?」
ガンが尋ねる。
「募集中」
 

「了解。なあ、真咲ちゃん、ウチで働く?」