Delisiouc! 15




「それで、どうなったの?」
「どうなったって、それだけだって」

オレがそう云うと、ダイニングテーブルに倉橋と美緒子ちゃんが突っ伏した。

「そうだよ、こういう男だよ、降矢」
「誠ちゃん……せめて慎司の十分の一でもいいから、がっつけばいいのに〜。課長だってちょっとはときめいてるよ、きっと多分。気を許さなきゃ、30女がそこまでぶっちゃけるわけないじゃんよ。てゆっても、課長もなんてゆーかさーいい人スギ」

どういうことですか。それは。
美緒子ちゃんは激しくデコレーションされた携帯を取り出してモニタをオレと倉橋に向ける。

「あたしに、誠ちゃんの弁当写メ送ってくれた〜、あたしこれでご飯のおかずにしたわよ。味気ないロケ弁が一挙に潤った……いい人だ……課長」

お前のその感覚もどうかと思う。
いいのか、人気モデルがそれで。
顔は綺麗だが、胃袋は親父だな、この娘。

「そういう女性は、多少強引なぐらい押せばいいと思う」

ごめん、ぶっちゃけ、今回のでいっぱいいっぱいなんですよ!
どんだけガラスの仮面かぶって頑張っちゃったか、お前等にわかんないだろ!
怖いんだぞ! ドキドキなんだぞ!
あああぁぁぁあっ! 思い出してもやばい、やばすぎる!
あんなのオレじゃないよ! もう!

「テーブルの影に隠れて、悶絶してますが、この坊ちゃん」
「察してやれ、降矢にしてはよくやったと褒めてやれ」
「アホか、あんたならこの状況で満足か? 最後までやっちゃうだろーが、お昼食ったら、夜の食事もとりつけて、ついでに相手もペロリと食っちゃうだろうが」
「当たり前だ、それがフルコースの醍醐味ってもんだろ」

恐ろしい会話すんなーばかー!
出来るか!そんな!
こっちはつい最近まで見てるだけで精一杯だったっつーの!

「会話してみてさ、どうなのよ」

美緒子ちゃんの言葉に、オレはテーブルの下で首を傾げる。

「引っ込み思案の誠ちゃんが、告ってさ、それでも相手と対峙しようってところは、進歩だけどさ、そうさせてくれるというか、そういう雰囲気も相手にはあるんじゃないの? そういうの相性ってゆーんじゃないの?」
「……」
「誠ちゃんと課長は、相性悪くないよ。多分」

そうなのかな。

「だーかーらーさー」

テーブルの下にいるオレを、ズルズルと引っ張り出した上に美緒子ちゃんが馬乗りにな
何!? なんなんだ!?

「近い将来の為に、この美緒子さんが、一肌脱いであげるよ」

は? うわ、何!? 美緒子ちゃんがオレの手首をつかんで床に押さえつける。
てゆーかこれは、この状況は、なんというか……。

「さ、練習しよっか?」

な、な、なんの練習?
聞くのも怖いんですけれど!?

「おま、ホントこの状況じゃ痴女だぞ」

倉橋が冷静に呟く。

「または露出狂?」

ギャー! 美緒子ちゃん、なんで脱ぐの!? 
一肌脱ぐってそっちか!? そういう意味か!?
あんた、自分で何やってんのかわかってんの?
Tシャツを勢いよくぐっと脱いで、ブラだけになった上半身が露わになる。
またブラのプリントがアニマル柄ってゆーのが、野獣のイメージ連想させる。
白い肌がダイニングのライトにあたって、おさえつけられてるから、少し影がつく。
そんな陰影も手伝ってか、もともとのスタイルの良さもあってかエロイよ、その表情も、あんたマジですか!?
柔らかくて緩やかな長い髪がオレの頬にあたる。
ブラに包まれてる二つの膨らみが肉感的。
腕とか細いのに肩とか薄いのに、なんで胸あんの?
ウエストくびれてるし。
ひいいいいぃ。心と裏腹に一部元気なんですけど、オレ!
この状況は……やばい……。
どうしよう。


「うっさい、慎司。抑えててくれたら、誠ちゃんのバックバージンはあげるよ」


その発言はぞっとする。
いや待て、倉橋! お前、美緒子ちゃん脱いでんだよ!
動揺しないの!? 何余裕で、コーヒー飲んでんの!?
ああ、コーヒー飲んでるからいいのか? ここでお前がノリノリでオレを抑えたら。
あわわ。

「とりあえず、ね? 怖くないからー。すっごくキモチヨクして、あ、げ、る」


艶っぽい声、フェロモン全開ですよ、この人!


「み、み、み、美緒子ちゃん!」
「なあに?」
「そんなことしたら」
「したら?」
「もう二度とご飯作ってあげないかんね!」


俺が目をつぶって叫ぶと、美緒子ちゃんは、俺に馬乗りになってフリーズしていたらしい。そおっと目を開けると困ったような顔をしている。

「性欲と食欲が葛藤しているようだが、ここで止まるってことは、食欲が勝ってるってことか?」

倉橋がヒョイと美緒子ちゃんからオレを引っ張り出す。


「だって、だって、誠ちゃんのご飯は魅力的なのよ! でも、エッチは未知数なのよ! やったことないんだから、技もテクニックも年相応じゃないでしょ? 下手かもしれないじゃん? 純なトコロはおいしく頂けるかもしれない。だけど、それは初めの一口分よね? あたしのテクニックと誠ちゃんのご飯とを比較したら、どっちが上だと思う慎司?」
「降矢の飯」

倉橋、即答かよ。
美緒子ちゃんがわあっと床につっぷす。
てか、倉橋、やっぱ美緒子ちゃんとやったこと……。
そこまで考えてブルルと首を横に振る。


「食欲も性欲もクリアーしたければ、お前が料理上手になって嫁にいけばいい」

そうだよね、それがいい。

「無茶苦茶云わないでよ!」

いや、無茶苦茶じゃないですから。
オレはやれやれと立ち上がって、脱ぎ捨てられた長Tシャツを拾い上げて美緒子ちゃんの首にくぐらせる。
ほんとうに、困ったお嬢さんだよなー。
課長を好きにならないまま、誰も好きにならないまま、この年まできたら、美緒子ちゃんのこと、好きになったかな?
好きっちゃ、好きだよ。この子は。
はっきりしてるし、多少強引なところはあるけど、可愛いし、エロイし。
モテモテでしょ、キミなら。
好きでもない男にこんなことしちゃ駄目だって、云ってもきかないし。

「練習しなくてもいいよ」
「自信あるの!? 誠ちゃん!」
「ううん、オレ、一生セックスしなくてもいいかなって」

美緒子ちゃんはまた床に突っ伏して「あたし、エッチもご飯もない人生なんていや」わああんと嘆いた。