REAL




キスシーンだけを繋いだフィルムを見つめる映画監督。
少年時代を思い出しながら。
感動のLAST。



「まーたー、映画観てるし」
俺は彼女を背後から抱きしめる。
別に彼女は驚かないで、立ちあがる。
「どうして来るの?」
「冷たい……こんなに好きなのに」
俺がワザとらしくそう拗ねて見せても、彼女は全然変わらない表情でコーヒーを注ぐ。
だめだよ。そんなにカフェインとっちゃ。
「眠れなくなって、お肌荒れるよ」
「そうね、もう若くはなから」
彼女は云う。
もう、つれないなー。ていうか、今日は特になんかアタリがきつくないですかー?
「御機嫌ナナメ?」
「どうして?」
「ん―――――、なんとなーく」
彼女は俺をじっと見る。
「何?」
「もう、ここにくるのはやめにしたら?」
俺は一瞬、沈黙する。
でも、それはほんの一瞬。
「どうして? どうして!? ひどーい、俺が子供だから? 俺より好きなヤツでもできたの?」
彼女は困ったように笑う。
「ううん、私がオバサンだから、キミに必要じゃないでしょ?」
あのさ。
俺は女性の年齢、全然気にしないタチなの。
それぞれみんなイイトコロあるじゃない?
同年代は同年代のオンナノコの良さがあるし、小さな子もそれは可愛いし、年配の人は付き合ってみてすごーく落ちつけるし。
俺にとっては、オンナノコは例え死ぬまで、カワイイ、心の栄養ですよ。
なんでイキナリそんなこと云うのかな。
「……なんで? 俺は好きなのに」
「すごいなー、シンプルだけどステキな口説き文句」
「ストレートに云わないと伝わらないの、恋愛は」
「キミらしいね」
「ねえねえ、どこが悪いの?」
「女グセ」

俺の言葉に間髪入れずに答えた彼女。
……そりゃ否定しません。
事実だもんね。

「この間、偶然見たの、キミが同じ学校の可愛い女の子を連れて歩いているのを」

いつだよ。
心当たりありすぎてわかんない。

「別にね、責めてないよ、キミはモテルだろうし、オンナノコ大好きだって知ってるからね」

責めてくれてもいいよ。
つーか、責められたいね。
大人ぶって(実際、俺より大人だけど)取り澄ましたこの人の、そういう面も見てみたいよ俺は。

「見てて、やっぱりそっちの方がお似合いだなって」
「ヤキモチ?」
「そうヤキモチ」

俺のからかい半分の言葉。
また間髪入れずに返してくる。

「羨ましかったの……、キミは映画なんか観なくても、リアルでちゃんと恋愛できる。私は映画でも観なくちゃ、恋愛している気分になれないもの。このラストシーンに流れるフィルムのように。ギュっと恋愛を詰めこんだキミ自身とは全然違う。リアルで恋愛なんて、やっぱり、ダメなのかも」

俺はリモコンでブラウン管の光を閉ざす。

「同い年のオンナノコに、なりたかったな」

寂しそうに、笑う横顔。
もうだめ。
この人、可愛すぎる。
今日に限ってこんなに可愛いの反則だよ。

「俺は今のままでいいよ」
「……」
「俺は、貴女が好きだから、傍にいたいんだよ。貴女に―――――映画なんか観なくてもいいって云わせたいね。そのぐらい、恋愛してるんだって、思わせたいよ」

だから、お願い。
俺にそのチャンスをくれない?
映画なんかよりもダイレクトに心に響く気持ちリアルで感じさせてアゲル。



とりあえず、その手始めに、彼女の頬に小さなキスを。