21話 エピローグ




「真咲ちゃん愛衣ちゃん」


お遊戯会は無事終わった。
週明け、オレは二人を呼びとめた。
崇行の妹のお遊戯会の衣装作りをきっかけに、うちのクラスの団結力(?)は深まったようで、この二人もすごく仲良し友達になっていた。
放課後も、二人揃って、おしゃべりしているところへ、オレが話しかけると、二人は顔をあげて手を振る。


「ガンちゃん」
「クラブ?」
「ううん、オレはこのまま帰るんだけどさ。崇行から預かってたんだよ」
「飯野君?」
「なに?」


オレが手渡したのは。クーピーでカラフルに花やら女の子の絵やらクリスマスツリーやらが書かれた葉書サイズの紙だ。
平仮名で、「くりすますかいのごあんない」と書かれている。
それを見るなり真咲ちゃんはこのクリスマス会の案内状の送り主を当てた。

「桃ちゃんからだー」
「ほんとだ。桃菜ちゃん、絵が上手だねー」

幼稚園児にしてはうまいというレベルだとオレも思う。
絵本の挿絵でもこういう画風は見かけるよな。

「なになに、『くりすますぱーてぃーしますので、きてください』だってーかわいいのー!」
「どうしたの? これ」
「崇行から預かってきたんだ」
「飯野君?」
愛衣ちゃんは同じクラスだけど、崇行は気を使ったらしい。
まあ、崇行との接触が愛衣ちゃんが保健室に張り付いてたのが原因だから、あいつもそういうところは考えてるのかな。
イケメンもそういうのはつらいよな。
何気なく声かけただけでも、女子は変に勘ぐるからさ。
「光一がデジカメで撮った写真を崇行のお母さんに見せたら、感激して泣いちゃったらしくて、みんな呼んでクリスマス会やろうってね。桃菜ちゃんも喜んで書いたんだって」

崇行のお母さんは怪我をして入院してたんだけど、本日退院するらしい。
そのことも二人に告げると、真咲ちゃんはぱあっと顔を明るくさせる。

「よかったねー桃ちゃん大喜びでしょ?」
「だねー飯野君も喜んでたでしょ」
「うん、お母さんが言いだしたからお母さんが準備するっていうのに、崇行が無理するなよって、崇行が料理はなんか作ろうかって言ってたよ」
「おお! じゃあ、うちらもなんか持ち寄ってやろうよ」
「それいい! お菓子とかジュースとかね。ケーキ焼いてこようかな」
「え? 愛衣ちゃんケーキも作れるの?」

お裁縫だけの人じゃなかったのか。
オレは驚いて尋ねた。

「簡単な奴とかだよ。デコレーションケーキは難しいからレアチーズならできるよ」

真咲ちゃんはパチンと手を叩いて尊敬のまなざしを愛衣ちゃんに向ける。

「ケーキ屋さんで売ってる飴細工の人形とか乗せれば、結構見た目はゴージャスになると思うよ」
「愛衣ちゃんすごーい」
「小物とかそういうのが好きなだけで……」
「だよねー愛衣ちゃんの部屋、あれ小物とか手作りでしょ」
「半分ぐらいは。気に入ったら買っちゃうし、でも置く場所困るんだー」
女の子同士がキャッキャ騒いでるのっていーなー和むなー。
男兄弟に囲まれてるから余計そう思うのかも。
「そうと決まれば、さっそくなんか見に行こう、いったん帰って駅前で待ち合わせしない?」
真咲ちゃんが目をキラキラさせながら云う。
「いーねー」
「あ。オレも付き合っていい?」
「うん!」
帰り支度して下校をする。

時間と場所を決めて、校門前で一旦解散するんだけど、オレは愛衣ちゃんを呼び止めて「家に帰ってから見てね」と伝え封筒を渡した。

「なーにーガンちゃん。愛衣ちゃんにラブレター?」
「違うよ、真咲ちゃんにもあげるね」
「なになに? ちょーだい」
ぱっと彼女は手を広げる。
オレはその手をガシっと握ると、真咲ちゃんはびっくりしたように目を見開いた。
「な、な」
「今日カイロがないから、真咲ちゃんがカイロ変わりね」
気になる女子の隙は逃しません。
でも、こういうことするから、真咲ちゃんにオレが「腹黒い人」とか思われちゃうのかなー?
それでも、真咲ちゃんは手を振りほどこうとはしないから、まあ、オレが図に乗ってるのは否定しないけれど。
「愛衣ちゃんにあげたのは?」
顔を真っ赤にしながら、真咲ちゃんはぷうっとほっぺを膨らませてる。
オレはポケットから愛衣ちゃんに渡したものと同じ封筒を取り出して、真咲ちゃんに渡す。
真咲ちゃんはそれをその場で開けて見る。


「わあーキレイに撮れてるーさすが瀬田君のデジカメ」

「だろ」

オレも、何度か見たけれど、真咲ちゃんが手にしているその写真を覗き込む。みんなが作った衣装を着た幼稚園児が中央によって、オレたちもそれに取り囲むようにして撮影した一枚だ。
演じきった得意満面の幼稚園児と、それに参加できたオレ達の達成感ではじけた顔が写ってる。

「怒涛の一週間だったけど、こうして見ると、ちゃんと現実に起きたことなんだなあって改めて思うよー」
「うん」
そして、彼女は写真を大事に鞄にしまう。
彼女は手を差し出す。
オレはそれを握り返す。
荒川から吹く風は冷たいけれど、手だけは暖かった。


「帰ろ、ガンちゃん。これは今年一番の写真だよ」


彼女は云う。

この集合写真は――――。
多分、この先何かあっても、一番キラキラした思い出の一枚になるって。
オレもそう思った。

 

 

 

END