Fruit of 3years2




「ないって……あんた……」
「毎日一緒だったから、その必要性はなかった」
「担当代えになったら、連絡ぐらいとれよ!」
歌恋はそう云うけれど、仕事ではなく個人で連絡しても、あの調子で接してくるのかどうか。
静自身、歌恋と今の今までこの会話をするまで、自覚していなかったけれど。
自分に自信がないから、彼にどう連絡とっていいかわからなくて、それでずるずると、時間がすぎた。
8歳差の年齢差は大きい。
「普通さ、三年つきあってれば、それなりにお互いラブラブの時期もあったでしょ?」
「……多分?」
「多分? って、何故疑問系? 何故持続しないのあんた!」
「いろいろ考えて」
「考えるな! 感じろ!」
「ブルース・リー?」
「そんなところだけツッコミかよ!」
ガッと歌恋はヘアメイクしてもらった鮮やかな巻き髪の頭を、ネイルを施した爪で抱え込む。
「わかってた、わかっていたよ、あんたがそーゆーキャラだったってゆーのは! アイツの前に付き合っていた男ともそーだったよ! うがあああ! 思い出した! 持続しないんじゃない。そもそもないんだ! あんたのキャラからいって!!」
一人で興奮している歌恋を見て静は溜息をつく。
「アイツのペースなら、静のこの性格をひっぱってくれるものと思っていたのに! 受身すぎるだろ! お前!」
ビシイっと人差し指で指差されて、静はその歌恋の指をぐっと握り締める。
「何歳よ、もう!!」
「来月31」
「さんじゅういち! さんじゅういちにもなって、何故そんななの!!」
その数字を連呼して欲しくないなと思う。
「何故って……仕事忙しいし」
「担当代えしてから、あいつとは逢わなくなってどれくらいなの?」
まさか、この静の性格に見切りをつけて、あの彼が、静を切り離しにかかってるとは歌恋としては思いたくない。
静は、最近逢ったのはいつだっただろうと、思い返す。
今現在は、新人のプロモーションだから、とにかくあちこち回るし、地方にも行ってる。
「二ヶ月はないね。最初の数週間は新しいマネージャーに引継ぎもあったけれど。その後は地方に出張してたし。向こうも海外レコーディング」
「今連絡しろ、今、ココで連絡しろ!」
静の肩を掴んでガクガクとゆする。
「時差がある」
「構うな!」
歌恋が叫んだ瞬間、静のスーツのポケットに入っていた携帯がブブブっと振動し始める。
歌恋の興奮を収めるように、静は片手でそれを取り出して、片手で歌恋を諌めた。だから誰からの電話かなのかを、液晶画面で確認することなく受信ボタンをオンにしたのだが……。
 
『静?』
 
聞こえてきたのは、ランキングチャートの上位に入り込むあの声。
今の今まで、歌恋と二人で話していた会話での中心人物。
なんというタイミング。
名前を呟きそうになって、静は周囲を見回す。
誰もいないと思われるスペースに移動してようやく話しかける。
 
「奏司?」
『うん。今忙しい?』
「MWの収録中」
『ああ、そう、どのくらいかかりそう?』
現在夜の7時14分。未収録のアーティストはあと3分の1はいる。
「まだ少し……日本なの?」
『うん、さっき帰ってきた。関空行きに乗って国内線に乗り換えた、羽田使うことのあるからこのマンション、便利だ』
「そう」
『今日は無理?』
「遅くなる」
『いいよ、待ってるから』
「明日はオフ?」
『うん』
「そう……それじゃ」
 
自分の予定よりも、彼の予定を確認して動こうという気持ちはある。
が、その行動が三ヶ月前まで彼のマネージャーだった仕事上の習慣からきているものなのか、それとも、自分の性格からきているのか、静自身はわからない。
彼からの連絡が、とりあえず、まだあるならば。
彼の時間が最優先。
――――そうするのは、多分。静自身が彼を想っているからなんだろう……。歌恋に鈍いとかリアクションが無く受身すぎるとか言われても、静は否定しない。
そんな静でも、興味がなければ相手にそれは伝える。
それをしないのは相手に気持ちがあるからだ。
ずっと一緒にいたから、気がつかなかったけれど。向こうはどういうスタンスだろう。
連絡がなかったのは、静との関係をプライベートごと「切る」為だったのだろうと静自身は思っていたのだが……。
違うのだろうか?
――――逢うのが、少し怖い……。
この呼び出しが、あの彼から本当に「いらない」と言われるのかもしれないと、それがないとは限らないから……。
昔はどうだったろう。
今までのそう数もない恋愛経験を思い返してみる。
いつも相手から切られる状態ではあった。
受身でリアクション薄くて、可愛く拗ねたり甘えたりなんてことなくて、相手の男にはそれが物足りなくて、関係の終わりを告げられていた。
……彼も、そうなのだろうか?
――――可能性はなくもない。
静は溜息をつく。
元々年齢差に無理がある。
立場的にも無理がある。
もっと早くに別れがきてもそれが当たり前だったのだ。
――――今までが奇跡みたいなものだったのだから。
 

TV収録が終ると、担当する新人グループは、飲み会をするので送らなくてもいいと言われた。
飲みすぎないようにと注意して、明日のスケジュールを確認すると、静は車を一旦社に戻して、電車を乗り継ぎ、奏司のマンションへたどり着く。
バッグから鍵を取り出す。冷
オートロックの鍵を開けて、エレベーターで高層階にある、奏司の部屋の前のドアチャイムを鳴らすと、レバーノブが動いて、ドアが開く。
部屋の主と静の視線が合った。
彼は静を見つめたまま、左手を伸ばし、静をドアの中にひきいれる。
――――気持ちが醒めているなら、彼を見ただけで、こんなに泣き出しそうにはならない。
ドアをロックしたかと思うと、彼は身体で静を押しつぶすようにドアに押さえつけた。
「……」
普通に彼に会うだけで、精神的に居心地が悪くて息苦しさを伴うのに、物理的に距離を縮められ戸惑う。
静の唇に、彼の唇が当たる。
呼吸することも許さないようなキス。
咥内に入り込んで、静の舌先も歯列もなぞって、唇が離れたかと思うと、角度を変えて、同じように侵入を繰り返す。
こんなキスは、あまりされなかった。
いつも、優しくて、静の気持ちを窺うようなカンジで、気持ちや感情は二の次。
そんなキスだったのに、今日は違う。
「……んっ……」
酸素を求めるようとしただけなのに、艶めいた声が漏れる。
ようやく唇が離れたかと思って、息をつくと、彼の手が静の頬から首筋、ブラウスの衿元まで降りてくる。
静が酸素を求めたように、彼が静の身体を求めているのはわかる。
ブラウスのボタンにかかる指が起用な動きで外しにかかる。
「奏司……」
彼がまだ、少しは自分を欲しいと思ってくれているなら、彼の好きなようにさせようと、静は力なくドアに背もたれた